お酒を飲み始めたのは中学生の時からというケイちゃんは、大の酒好き。
毎日、お客さんのボトルを空にするのにまだ足りず、
帰宅してからも晩酌を止められない。
「お店で飲むのと、家で飲むのは別物よ」と言うケイちゃん。
体力が続く限り飲むのは勝手だけど、ちょっと絡み癖があるのが玉に瑕。
それでも、お店で飲むときにはかなり自制しているようで、
ちょっとオーバーアクションにはなるものの、
すんでの所で「面白い子」に留まっている。
でも、それがかなりストレスになっているようなのだ。
「お酒は楽しく呑まなくちゃ」というケイちゃんだから、
お店の子たちと呑みに行くのも大好きで、
いつもスポンサーになって深夜の街に繰り出している。
おごってもらえるわけだから、彼女に付いていく子も多くて、
ケイちゃんはちょっとしたボス気取り。
でも、気取っているだけなら問題はないけれど、
呑めば呑むほど気が大きくなって、大暴れをしてしまうのが困りもの。
大暴れの内容は、大声で怒鳴る、ねちねちと愚痴をこぼす、
手当たり次第に人を叩きまくる、服を脱ぐ……など。
その様相はまさに狂ったボス。
そんな彼女を毎回なだめるお店の子たちも大変だ。
でも、
「ケイちゃんは暴れるけど、悪気はないんだよね。
だから私たち許せるの」
「そうそう、私も同じように思うけどできない。
それをケイちゃんが代わりにやってくれているようなもんだから…」
「この商売はストレスが溜まるからね。あのくらいはやっちゃうよ」
不思議と彼女に対する評価が悪くないのは、
ひとえに彼女の普段の人柄の良さなのかも知れない。
素面の彼女が良い人だとわかっているから、
周りは酔っぱらった彼女を大目に見てくれているのだ。
とはいえ、路上で叫び、服を脱ぎ出す癖には誰もが困っているようで、
呑みに行った帰りはいつも、両脇をガッチリ、ガードされながら
タクシーに押し込められてしまうのだった。
そんなケイちゃんがある日、同僚にホストクラブに行こうと誘われた。
一人で呑むことにやぶさかではないケイちゃんは、
意外なことにホストクラブは初体験。
「仕事を忘れてお姫様気分になれるわよ」という同僚の言葉に、
少なからず期待を抱いてドアを開けたケイちゃん。
ところが、ここでもケイちゃんのボス魂が炸裂し、
阿鼻叫喚の一夜は明けるのだ。
まずは、彼女たちの席に着いたホストが悪かったのかも知れない。
一人は店のナンバー2で、一人は入店間もないド新人。
ナンバー2は頼みもしないのに、自分がいかにモテているかを自慢し、
ド新人は水割り一つまともに作れないていたらく。
サービスのプロとして、ケイちゃんはだんだんイライラしてきた。
「なんで、金を払って人の自慢話を聞かなきゃいけないわけ?」
ケイちゃんのドスの効いた声がテーブルを一瞬、静かにする。
「ちょっと、そこのアンタ。水割りくらいちゃんと作れよ。
入れるたびに濃さが違うじゃん。マジイよ」
文句を言うたび、ケイちゃんの声はボリュームをアップする。
一緒に行った同僚がたしなめるが、それが益々腹立たしい。
「うっせーんだよ!」と叫んだとき、
ナンバー2がかすかに舌打ちしたのをケイちゃんは見逃さなかった。
「テメエ、何、舌打ちしてんだよ!?
え?テメエ、何様のつもりだ!?」
とうとうケイちゃんは切れた。
切れて立ち上がり、グラスを床にたたきつけると、
ナンバー2とタイマンの姿勢を取った。
「お客様、お静かに……」
「……ンだってぇ!?
なんでテメエに言われなきゃいけねーんだよ!?」
ケイちゃんの怒りは収まらず、暴走は止まらない。
こうなるともう止まらないとわかっている同僚は
我関せずでその場を離れ、静観のかまえを取った。
困ったのはホスト達。
おろおろしながらケイちゃんの機嫌を取り始めるホストに向かって、
ケイちゃんはテーブルの酒をぶちまける。そして、暴れる、暴れる……。
「ケイちゃんのハードルは高いから、
ちょっとやそっとの金では彼女を癒せないってわかったわ」
同僚は呆れたようにペロッと舌を出して見せた。
次回は5月19日アップの予定です。

2008.3.27発売
『それって、立派な「うつ」ですよ-自分を責める人たちの処方箋-』
(実業之日本社 1365円)
著者:安部結貴
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