エミちゃんの彼氏は大学生。
年下の彼は一言で言って遊び人。
学校のレポートは友達任せで、授業にはほとんどでない。
それでも、エミちゃんにとっては問題ない。
ヒモならヒモで、家のことをちゃんとやってくれて、
自分のことだけを愛してくれたら、
学歴だとか就職だとか、そんなの関係ないのだ。
ところが、彼氏の方はそろそろそうもいかなくなってきたらしい。
他の学生同様に、とりあえず就職活動などを始めた。
もともとルックスの良い彼氏。
スーツ姿もビシッと決まって、見た目は立派なサラリーマン。
「やっぱ、就職するの?」
「そうだね。一応、親は安心させたいから」
「ふ~ん、そうなんだ」
そんな話をしているうちに、彼氏は言った。
「そうだ、エミ、お前、うち来る?」
「はっ?」
話しを聞くと、なんと育ちの良い彼氏。
早くもお見合いの話がチラホラ来ているというのだ。
「俺、まだそんな気ないし。顔を見るだけってのも面倒で……。
だからお前がいるからってことで、
とりあえず親を黙らせたいんだよね」
「……まぁ、いいけど……」
彼氏の本音はわからない。
親に会わせたからといって、
結婚を意識しているとはこれっぽっちも考えられない。
その言葉通り、
とりあえず、俺にはその気はないと言いたいだけなのだろう。
それならそれでも、まぁいいや。
エミちゃんは彼氏の母に会うことになった。
うちの親はけっこうお堅いから、お前もそれなりの格好をしてくれ、
という彼氏のリクエストにお応えして、エミちゃんとしてはかなり頑張って、
おとなしめのスーツを着てみた。
面倒だな、とは思ったけれど、
たまにはこういうのも良いかもと思ったことも確か。
で、彼の家に行ってみると、出てきたのは和服姿の清楚な婦人。
見ればお家も立派です。
「初めまして、エミです」
そう言ったっきり、エミちゃんは硬直。
なんたってこのお母様、お茶の先生をしていて、
とっても礼儀作法に厳しい人なのだ。
「聞いてないよ……」と、エミちゃんは唸ったが、
事ここに至ってはどうしようもない。
ここはしばらく我慢をしなければ。
出されたお茶もお菓子も、味などわからず、
お母様の質問にも「?」なことばかりで、
まるで拷問のような時間を過ごした。
「もう、かんべんしてくれよ」と立ち上がろうとしたら、
あら大変、正座していた足に感覚がない。
あれ?あれ?と思っているうちに、
ド派手にズデーンと倒れてしまったエミちゃん。
「まぁ、お座りもできないの?」
と言うお母様に、苦笑いしかできなかった。
「もう!嫌だからね!」
エミちゃんは彼氏に毒づいた。
「どうして私を連れて行ったのよ。ただの恥さらしじゃない!」
まぁ、正座が得意な人というのはそんなにいないと思うけど、
それにしても、問題はそんなことじゃないよね。
エミちゃんは、どんなに好きな人でも、これだけはダメだと思った。
あのお母様がいる限り、絶対に、絶対に「お嫁さん」にはなれない、と。
こればっかりはどんなに金を積まれても嫌だし、
どんなに金を積んでも自分には不可能だと思う。
もっとも、彼氏をヒモだと思っていたくらいだから、
結婚願望など、そんなにないけどね。
次回は6月2日アップの予定です。

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