インタビュー

2019.4.10

せりサン「ここで稼いだお金でカレーのお店を開くのが夢です」

せりサン「ここで稼いだお金でカレーのお店を開くのが夢です」

Profile

桃色の妻たち
せりサン 32才

中学生では吹奏楽部でトランペットを担当し、高校時代の演劇部では監督。ともに部長を務めたほどの人望を持つスレンダー女性。短大を卒業後、昼職と兼業で好奇心から風俗業界へ。会社の異動をきっかけに一時業界を離れるが、船橋市近郊に引っ越してきたことを機に復帰。現在は1日7時間、週4日というペースで働きながら、将来の夢である飲食店開業のためにお金を貯める。

都心から総武線に乗って江戸川を越える頃には、車窓の景色は東京らしいゴミゴミした空気感が少し和らぎ、牧歌的な雰囲気をグラデーション的にまとい始める。目的地の船橋駅に降りたとき、総合商業施設もあり飲み屋も多く、ベッドタウンとして暮らすにはさぞ居心地がよさそうだなと感じた。しかし、表向きアットホームな様相を装いながら、実は風俗店が軒を連ねるエリアを抱えてたりするのが得てして日本の街づくり。ジャパニーズ・エロシムシティ。

取材する店が入った風俗ビルを見上げる。昼間だからまだ活気はないが、夜になればこの静かなビルは疲れた企業戦士たちが体と心を癒す大人のアミューズメントスペースに様変わりすることがなんとなく想像できる。それも含めてきっと船橋という街なんだろう。

今回、取材する店舗の名前は「桃色の妻たち」。淫靡さをアピールするのに字面に頼りきりのお店って経験則から、過去に魅力を置き忘れた団地妻っぽい女性が多く在籍するような気がしていたのだが、取材対象者として現れた女性はこれがまたスレンダーな美人だった。

4万円入った財布を落として風俗業界に

「せり」と名乗るその女性は、人妻と称するにはあまりにエネルギッシュで、エロさというよりはカッコよさが先に立つタイプ。芸能人に例えるなら江角マキコのような凛々しさがあり、この業界の女の人には珍しくノーメイクなのが、顔立ちのよさを余計に浮き彫りにする。

「シャワーとか顔射で化粧が落ちるのがイヤだし、顔を舐めたいってお客さんの要望を嫌がりたくないのでいつもノーメイクです。あ、あと源氏名のせりは本名です。本名は漢字ですけどね。だってそうしたほうがもし知り合いがこのお店に来ても避けてくれるじゃないですか(笑)」

もうこれだけで、彼女を変わり者認定するには十分だ。ただ、関わりたくない類のそれではなく、もしプライベートで知り合うことがあるなら、積極的に仲良くなりたくなるような“陽”の雰囲気があり、ついつい前のめりで彼女の話を聞いてしまう。彼女は中学時代の吹奏楽部と高校時代の演劇部でともに部長を務めたというのも納得だ。

「最初に風俗を始めたのは20歳くらいの頃。短大を出て普通の昼職に就いたんですが、そのときに4万円も入ってた財布を失くしちゃったんです。20歳の4万円ってめちゃくちゃ大きいじゃないですか。どうしよう…って思ったんですけど『あ、風俗で働けばいいや!』と(笑)。キャバクラとか風俗のお店って女しかできない仕事だし、当時は若いうちしかできないと思ってて。私はお酒が飲めなくて、夜の人特有の化粧や匂いで実家にバレちゃうから風俗で働くことにしました。抵抗はまったくなかったですよ。好奇心が旺盛なんです(笑)」

彼女を一言で表現するなら“底なしにポジティブ”ではないだろうか。風俗業界に入ってくる人は、その多くが心のどこかに陰があるもの。彼女の心にはどの角度からも陽が当たっているようで、こういうタイプの風俗嬢もいるのかと新鮮な驚きを感じた。

「それで掛け持ちで仕事をするようになりました。お昼の仕事はコールセンターです。自分で言うのもなんですが、コールセンターの仕事はけっこう得意なんです。人と話すのが好きなので。風俗の仕事にも生かされますよ。今のお店は人妻店だからちょっと安くて、初めて風俗に来るお客さんもいます。そういうお客さんの緊張をトークでほぐしてあげられると、嬉しくなります」

15年付き合ってる同棲中の恋人は…女です

顔舐めの話といいこの話といい、彼女にはプロフェッショナルな姿勢がある。それだけの意識があれば評判になるのも自然なことで、本指名が1本もない日はほとんどないそうだ。ちなみに、最初に働いていた風俗店は会社の異動に伴い辞めることになり、風俗業界に復帰したのはこのお店に勤めるようになった3年前から。

「今は平均して週4日働いていて、時間は午後5時からラストの12時くらいまで。若い頃に比べれば朝起きたときに体力的にキツイなって思うこともあるけど、お客さんと対すればスイッチが切り替わるし、シフトも自分の都合で調整できるんでそこまで大変じゃないですよ。休日は料理が好きなので、ちょっと手の込んだものを作ったりして過ごします。得意料理はカレーです。カレーを挙げると得意じゃない人みたいだけど、本当においしいんですよ! ちゃんとスパイスから作りますからね」

とはいえ、出勤日は独特の生活サイクル。そしてここは人妻店。夫がいるとしたら仕事のことは隠し通すのは難しいはずだ。

「一応結婚してます。いや、籍を入れてるわけじゃないから事実婚っていうのかな。相手が女性だからです。あはは、びっくりしました? たまにお客さんに言うことがあるんですけど、そのときもそんな感じで驚かれます。学生の頃は普通に男の子とも付き合ってたし、でも完全なレズってわけじゃなくてバイですね。今の嫁? 恋人? と出会ったのは高校生の頃、チャットで知り合って遊びに行ったのがきっかけです。その1年後くらいに私から告白して付き合いました。もう15年くらい前です、長いですよね。

恋人は私の仕事のことを知ってます。最初のうちは言えなかったけど、10年くらい付き合ううちに、この人は気にしない人だなって確信できたから打ち明けました。案の定、『あんまり無理しないでよ。あ、あとちゃんと病院に行ってよ』って男前なリアクション(笑)。性格的には私のほうが男っぽいというか、サバサバしてるんですけどね」

イヤなことはあるはずだけど、それを不満に思わない性格なんです

代えがたいパートナーに出会ったせりさんは、今後もできることならずっとこの恋人と一緒にいたいと話す。カミングアウトせずともどちらの両親とも黙認に近いかたちにはなっているとはいえ、弟も妹もすでに結婚している。世間体を考えればそんな人並みの幸せを彼女が味わうことはないのかもしれない。でも彼女は気丈に笑う。自分の人生は順風満帆です、とその笑顔が語る。

「将来の夢は飲食店を持つことです。稼げなくてもいいんです。細々と自分が好きなカレーを出せる店にできれば。そのためにこういうお店で働いてるっていうのもあります。まぁまだまだ先の話ですし、できたとしてもうまくいくかなんてわからないですけど。今までの人生はずっとうまくいってるように見えるって? う~ん、イヤなことはあると思うんですけどそれを不満と思わない性格なんですよ。強いて不満を言うとすれば、最近インフルエンザにかかって痩せてしまったことですかね(笑)」

体重40kg代のスレンダー美女はそう嘯く。ともすれば嫌味になりかねない発言でも、彼女の性格からそんな意味を与えない。

人生は辛いことのほうが多い。でも心持ちで景色なんていくらでも変わる。果てしなくポジティブな彼女を見ていると、改めてそんなことを思わされる。辛いことも人生におけるスパイスにしてしまえ、彼女が将来お店を出したとしたら、そこのカレーの味付けはきっとそんなメッセージが聞こえてくるんだろうなと想像してみる。

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