元ピンサロ嬢の30分ガチンコ勝負

【第33話】ピンクの花道
待機室の思い出といえば、もう一つ。
昔勤めていた小さなピンサロに新しい従業員がやってきました。
痩せ形でいつもネクタイをしているロマンスグレーの紳士で、たしか年齢は当時で50代半ばくらい。
低くてよく通る声で昭和チックなアナウンスを入れてくれるおちゃめさんでした。
お客さんとイチャイチャしすぎて時間超過してしまった時は
「○番テーブル、お時間です」
という店内アナウンスが流れるんですけど、ロマンス紳士の場合は
「離したくない…離れたくない…。そんな若い二人にもお別れの時間がやってまいりました…」
ってやたら抒情(じょじょう)的なんですよ。
演歌の花道か!
キャバレーやクラブなどを転々として30年。
なんでこんな場末のピンサロに?って思うくらい仕事のできる人だったので、店長からも女の子からも信頼されていました。
店長がお休みのある日。
待てども待てどもお客さんが来ない、いわゆるお茶引きだったんですね。
もうすぐ閉店だしお客もいないし、正直だらけまくっていた。
そしたらロマンス紳士が、「内緒ね」って言ってみんなに缶チューハイをふるまってくれたんです。
その勢いで「もうお店閉めちゃえ!」ってことになり、待機室で宴会となりました。
狭い待機室の秘密基地っぽさと「今、悪いことをしている!」っていう高揚感が相まって、やたら盛り上がってしまった。
お店のマイク使ってロマンス紳士のアナウンスの物真似したり、嫌いな常連さんの悪口言いまくったり、写真撮りまくったり大はしゃぎ。
いやー、楽しかったな~。
で、そのお店を辞めて数ヵ月後。
久しぶりに店長や女の子たちに挨拶に行ったら、ロマンス紳士の姿がない。
「あれ、ロマンスさんは今日休み?」
と女の子に聞いてみたら、顔を見合わせてなんだか気まずそうな雰囲気。
詳しく聞いてみると、ロマンス紳士はアル中だったらしく勤務中にお客さん用のビールを大量に飲んでいたのだとか。
あの名アナウンスは、もしかして酔ってただけ!?
さらに、店長に見つかって怒られた直後、お店の売上げを持ち逃げして行方をくらませてしまったのだそうです。
あんなに礼儀正しくてみんなに慕われていたロマンスさんが…!?と、しばし絶句。
「ピンサロの売上げを持ち逃げするアルコール中毒の50代」って物悲しすぎるよ…。
恋とネオンで華やぐピンサロ街は、今宵もせつないため息ばかり…それではここで一曲。
永田王で「おしぼりブルース」です、どうぞ!

永田王(ながたおう)
OL・風俗嬢を経て現在はライター業やトークイベントなどで活躍中。