恋の花びら大回転
【第26話】「痴漢もどき?」後編
よく来てくれるHさんというお客さん。40代後半くらいのナヨナヨした小柄なおじさんで、ちょっと気持ち悪いけど気配りのできるいい人。優しいし、頑張って話を振ってくれたりする。まあ気持ち悪いけど。
しかし、Hさんは、お酒が入ると急に密着して痴漢もどきになるタイプでした。
前回お話ししたKさん・Aさんにも共通してるんですが、彼らは異常に距離が近い。以前、Kさんのいる飲み会で、密着されるのが嫌だから何度も席替えしたんですが、その度にフラフラついてきて隣に座ろうとするので、何度捨てても戻ってくる呪いの人形みたいでした。
痴漢もどきおじさんは、基本的にコミュニケーションする気ゼロ。相手がどんな状態であろうと、何の脈絡もなく手を出してきます。しかし、Hさんは「無言でいきなり触ると嫌われる」というのを学習したらしく、一応触る前にひとこと「大好きだよ」と言います。少し頭がいいですね。でも惜しい! こちらとしては唐突に告白されて触られるのも、無言で触られるのも同じくらい訳がわからないし気持ち悪いので大差なかった。
どんなに嫌がっても払いのけても、「でも大好きだから」と言って触ろうとしてくる。
「好きって言えばなんでも許されると思ってんじゃねえぞ」
と怒ってみましたが、「ごめんね~」とか言ってニヤニヤするだけ。もうここまで来ると気持ち悪いというより怖い。日本語は通じるのに会話が通じない状態。
しかし、目の前で何を言っても本当に全然聞いてないから、そのうち私もなんだか面白くなってきちゃって。先日、
「大好きなんだから、嫌がらないでよ~。なんでそんなに避けるの~? 俺のことどう思ってるか正直に聞かせてよ~」
と、珍しくこちらに歩み寄る姿勢を見せたので、正直に「ハゲ」と答えたところ、
「うんっ、大好きだからそういう意見も受け入れていくよ!」
って言ってて、爆笑しました。
なんで「お前の意見も聞いてやらないでもない」みたいな上から目線なのか意味がわからないし、そもそもハゲてんのはお前なんだから現実を受け入れろよ。
私だったら、お気に入りの異性にそんなこと言われたら、その後どんなに優しくされたとしても諦めるんですけど、Hさんは全く気にする様子もなくお店に通っています。すごい。その図太さすごい。
今後、酔っ払ったHさんにはサンドバッグ代わりになってもらおうと思っています。
どうせ何言っても聞こえてないので、他のお客さんには直接言いたくても言えないことを、Hさんにぶつけてストレス解消したいです。
藍川じゅん
元ピンサロ嬢。アダルト誌にてコラム連載中。著書『大好きだって言ってんじゃん』(メディアファクトリー)が好評発売中!