恋の花びら大回転

【第49話】お風俗文学館(3)
「お風俗文学館」では風俗やキャバクラで働く女の子にオススメの、パワフルな女の子の本をご紹介します!
今回は、川端康成の「伊豆の踊り子」(新潮文庫)
表題の「伊豆の踊り子」は、エリート大学生が一人旅の途中で旅芸人の一座と仲良くなり、
踊り子の女の子と打ち解けるものの、なんか急に「そろそろ東京帰らなきゃ」って言い出してお別れする、
といういたってシンプルなストーリー。
「旅先で出会い激しく愛し合った踊り子が、実は小さい頃生き別れた妹だった…!」とか
「踊り子が実は二重人格で、主人公の両親を殺した張本人だった…!」とかそういう衝撃のオチは一切なし。
ただ、最後の数行で唐突にBLっぽい謎展開
があるので、腐女子の方は要注目です!
40ページしかない短編なので、ンモー主人公おぼこい~踊り子かわい~って思ってるうちにすぐ読み終わります。
で、この本を「風俗文学館」で取り上げたのは、
「伊豆の踊子」と一緒に収録されている「温泉宿」を読んでいただきたいから。
「温泉宿」は、昭和初期の温泉宿の女中や娼婦たちのお話。
女たちを活き活きと艶めかしく描いています。
主人公のお滝は体が大きく気の強いレズビアンの女の子で、
母親を張り倒したり同僚の女を足で踏みつけたりと、とにかく気性が荒い。
また、人気がありすぎて村から追い出された娼婦のお咲も、
汽車や馬車を乗り継いでこっそり竹林で風俗の商売を続けるしたたかを持っています。
当時の貧しい女性たちの環境は劣悪そのものですが、みんな貧しくも逞しい。
この小説は「彼女等は獣のように、白い裸で這い廻っていた」という一文から始まり、
どの女たちも力強さと気の強さを持ち合わせ、まさしく獣のような躍動感に満ちています。
お滝がとにかく野性的で、彼女が暴れると何故かグッときてしまう。
お滝が女の子に好かれるのもわかります。
風俗やキャバクラなど、接客業をしているとつい
「我慢しなきゃ」とか「嫌われないようにしなきゃ」と思ってためこんでしまいがちですが、
嫌われても怒られてもいやなものはいやだと、全身で表現していいんだな! と勇気が沸きます。
ちなみに、吉永小百合主演の映画版「伊豆の踊子」(1963年)は、
「伊豆の踊子」と「温泉宿」が合わさった内容になっています。
川端康成の文章は美しく、詳しく説明しなくても情景が目に浮かぶのが特徴とされていますが、
私なんぞは想像力が欠乏しているので、たまに
「これどういうこと!? 絵コンテで説明して!?」となってしまう時があります。
映画だと「あっ、あれってこういう状況のこと描いてたのか!」とわかりやすいので
小説を読んで情景が思い浮かばない時は、まったり映画タイムを過ごすのも
心身ともにリフレッシュできるかもですよっ!

藍川じゅん
元ピンサロ嬢。アダルト誌にてコラム連載中。著書『大好きだって言ってんじゃん』(メディアファクトリー)が好評発売中!